02. 創業融資を受けるために知っておきたい制度と審査のポイント

1)新規開業における創業融資制度
日本政策金融公庫のスタートアップ向け事業者の融資制度が令和6年4月1日より拡充されています。
主たる内容は下記であります。
①自己資金要件がなくなりました。
従来は、「新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を2期終えていない方は、創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金を確認できる方」が要件となっていましたが、これが撤廃され、制度上、自己資金なしでも申し込みできるようになりました。
ただ、今までは、自己資金は必要資金の1/2は求められることが多々ありましたので、実際の運用がどうなっていくのか注目していく必要があるでしょう。
②融資限度額が拡張されました。
従来は、融資限度額は3,000 万円(うち運転資金 1,500 万円)となっていましたが、新制度での融資限度額は、7,200万円(うち運転資金 4,800 万円)となりました。
従来までの運用では、1,000万までとなっており、1,000万超となると、本部決済となり、かなりハードルが高かったですので、これからの運用でどこまで緩和されるか注目していく必要があるでしょう。
③返済期間が延びました
従来は、運転資金は7年以内の返済となっていましたが、新制度の運転資金の返済期間は原則10年以内と延びました。
設備投資資金は、従来からの20年以内で変更はありません。
④据置期間が延びました
従来は、最長2年以内でしたが、新制度の据置期間は最長5年以内となりました。
2)日本政策金融公庫が融資審査で活用する信用情報
日本政策金融公庫は、全額を国からの出資で運営される金融機関であります。そのため、民間金融機関からの融資が行き届きにくい、創業時の個人事業主・中小企業等に対して積極的に融資を行います。
融資審査のために、民間金融機関や保証協会に提出する書類がすくなく、審査も長時間でないため、融資審査手続きにかける作業量を減らすことができます。
一方、民間金融機関と異なるのが、個人の信用情報が問われるということであります。
民間金融機関は決算書重視で個人の信用情報を見ないことが多いです。
信用情報とは、銀行や消費者金融等の金融機関から提供された信用情報を管理。提供するための機関であります。
クレジットカードやローンの残高と2年分の返済状況も記載されています。
日本政策金融公庫は、資金貸与しても問題ないかどうか確認するために、信用情報機関にある信用情報を調査します。
ほぼ審査落ちになるのが下記にあてはまる場合です。
- 過去5年以内に61日以上の延滞をした
- 過去6年以内に債務整理をした
- 過去5年以内に強制解約を受けた
- 過去10年以内に自己破産をした
また、公共料金の支払い遅延や税金支払いの遅延や未納も融資審査においてマイナスとなります。
公共料金の支払い遅延あるかどうかは、審査の際に提出する預金通帳等の写しをみることによって把握されます。
3)創業、開業時における融資審査は過去の経験が問われます。
起業する場合、よく検討課題になるのが、設備投資含めた準備費用、当面の運転資金をどうするかです。
補助金は後払いであり、第三者含めた増資、あるいは金融機関からの融資により資金調達することが多いです。
増資は、増資する側に将来においてもメリットがなければ、成立しませんので、大きな将来性のあるビジネス(株式上場等が視野)でなければいけないことから、金融機関から融資をうけることが一般的です。
日本政策金融公庫による融資が多いのが一般的であります。
日本政策金融公庫の担当者と話しして、感じるのは、起業される方の熱意、経験がどうなのか気にしているということです。
業種により様々な特徴があり、その特徴を充分に認識し覚悟ができているかが問われます。
この点を、今までの経験がどうなのかということで判断されます。
さらに、起業に向けて、業界に対する分析、勉強ができているかです。
例えば、コンテスト等に出場し、どうであったのか、様々なアドバイスをどう活かすのか、また、業界雑誌等で情報集できているかです。
このようなことをアピールできれば、融資担当者は応援したいという心境になります。
逆に、いままで、経験や勉強もしていなければ、融資担当者に、これからのビジネスの将来展望を説得力をもってPRできないでしょう。
融資担当者は、「これからのビジネス展開に大丈夫かな?」という心証を抱くことになります。
経験や実績は、単なる知識と異なることを、充分に説得力をもってアピールできます。
4)融資審査申込にあたりしてはいけない決算書、試算表
事業者の方は、事業遂行上、入出金の時期のタイミングや設備投資にあたり、金融機関に融資申請することは、よくあります。
その際に、必ず、決算書や試算表の提出を求められます。
金融機関が決算書を求めるのは、売上や利益状況確認することももちろんですが、これら以外の様々な観点からもみます。
売上や利益の状況が良好であっても、決算書をみて、融資申請を却下されることもあります。
どのような決算書がいけないかというと、いろいろな観点があります。
①経営者への多額の貸付金あると、金融機関はマイナス評価となります。
経営者が公私混同して、会社の資金を流用しているのではないか、本来は役員報酬であるものを利益調整のため(利益増やして、金融機関の心証アップ)の貸付金ではないかとかの疑念もたれます。
②現金残高が多い決算書や試算表もよくありません。
本当に手許現金がこんなに多いのか、間違っているのではないか、現金管理がされていないのではないか、現金が多額なら資金充分であるのに、何故、融資なのかと思われます。
③勘定科目内訳書に、内容が明瞭に記載されていない
(「その他」として記載されたものの金額が多額)と、決算書が正しいのか、勘定科目の内訳を適切に管理していないのではないか等の疑念を、金融機関はいだきます。
また、社会保険や税金の滞納があると、支払うべきものが支払われていない、ルールを順守しない事業者として、金融機関の心証が悪くなります。
5)個人の負債が融資審査に与える影響
これから、事業を行うべく起業する、そのために融資を受けたいと考える方は少なくありません。
その時、時々あるのが、個人としての負債(内容にもよりますが)を抱えている人は注意する必要があります。
例えば、クレジットカードによるカードローンを抱えている場合、融資金がその返済に回って、事業資金として残らないのではないかという意識を金融機関は抱きます。
つまり、自己資金があっても、金融機関は、この負債額を差引して自己資金がいくらあるのかを考えます。
(自己資金の額がいくらあるかは、融資金額に影響あたえます。)
また、支払期限到来済みの債務について、未払いのまま、かつ、相手先と交渉もせず、そのまま放置している場合はもっと厳しくなります。
払うべきものを支払わずに、放置して、融資申し込みたいというのは、人として不合理である、これを解決してから融資申し込むべきであるとされ、融資を受けることが相当困難になります。
また、上記と同様に融資しても、事業に使われず、この債務の返済に回ってしまうのでないかと思われます。
住宅ローン等は、カードローンと異なり、住宅取得のためであり、浪費等とは異なるため、上記のような扱いには該当せず、自己資金の未マイナスとはみなされません。